ヴィーガン(ビーガンとも呼ぶ)というと、玄米や野菜など天然の植物を食べ、動物性食品はとらないのが一般的です。しかし、ヴィーガン生活をしている家に生まれた子供をヴィーガンで育てるのは、はたして良いのでしょうか?
実は、ヴィーガンでは子供の成長に必要な栄養素が欠乏する可能性が示唆されています。栄養が足りないと、健康に影響が出たり発育に支障が出たりする恐れがあります。
そこで今回は、ヴィーガンが子供の成長にどのような影響をもたらすかについてお伝えします。
ヴィーガン・ベジタリアン生活で子育ては可能? ヴィーガンに欠けがちな栄養素とは
ヴィーガンやベジタリアンの食事は、子供の成長に向いているのでしょうか。たしかに植物性の栄養は豊富に摂ることができます。しかし、子供の成長には動物性食品からしか得られない栄養素も必要なのです。
栄養が足りないと、体の成長が遅れるばかりか、言語や学習能力の成長にも影を落とすことが考えられます。また、内臓の発育が進行せず、病気がちになったり衰弱したりする危険性もあります。
そこでまず、ヴィーガンで不足しがちな栄養素について解説します。
動物性食品を摂取しない食事で欠けがちな栄養素とは?
ヴィーガンでは一般的に動物性の食品はすすめられていないので、あまり摂取しません。なので、動物性食品にたくさん含まれ、植物性の食べ物には含まれない栄養素が不足しがちです。
では、一体ヴィーガンではどのような栄養素が足りなくなりやすいのでしょうか。
1. タンパク質(アミノ酸)
タンパク質は、髪や皮膚や筋肉など体のあらゆる部分を形成する、大切な栄養素です。ヴィーガンでは豆腐や納豆といった大豆食品をメインにタンパク質を摂りますが、肉や魚などの動物性タンパク質を摂る食事に比べて摂取量が少なくなりやすいです。
また、タンパク質がバラバラに分解された形が「アミノ酸」です。アミノ酸のうち、体の中で合成されず食事やサプリなど外から補わなければならないものを「必須アミノ酸」と呼びます。
たとえば動物性タンパク質である卵は、必須アミノ酸がバランスよく含まれており、「良質なタンパク質」を摂れる食品と言われています。
日本では、1日あたり18歳以上の男性で60~65g、女性で50~55gのタンパク質を摂ることが推奨されています。上限は決められていませんが、腎臓が弱い方はタンパク質のとりすぎに注意が必要です。
2. オメガ3系脂肪酸
DHA、EPA、ALAに代表されるオメガ3系脂肪酸は、脂質の1種です。不足すると皮膚炎などの恐れがあります。
大人で1日に1.6~2.2gが摂取目安量とされています。食べ物から摂取する必要がある栄養素で、特にDHAやEPAはヴィーガンではあまり食べない魚介類に多く含まれます。
3. カルシウム
人間の骨や歯に欠かせない栄養素、カルシウム。欠乏すると骨粗しょう症などのリスクがあります。
カルシウムの1日の摂取推奨量は、大人の男性で約700mg~800mg、女性で600~650mgとされています。乳製品に多く含まれ、ヴィーガン食では不足しやすい栄養素です。
4. 鉄分
鉄分はミネラルの1種で、レバーや赤身肉など、動物性の食品に多く含まれる栄養素です。人間の赤血球にたくさん存在し、血液酸素を全身に運ぶという大切な役割をします。
18歳以上の男性で1日7.0~7.5mg、女性で1日6.0~6.5mg(月経時は10.5~11.0mg)が推奨量です。鉄が不足すると、体が酸欠状態になり鉄欠乏症貧血を引き起こす恐れがあります。
5. 亜鉛
亜鉛は鉄分と同じくミネラルの1種。全身の細胞に存在しており、欠乏すると味覚障害や免疫機能障害などの影響が出る恐れがあります。
男性は1日に10~11mg、女性は8mg摂ることが推奨されています。動物性食品に多く含まれる栄養素の1つなので、ヴィーガンでは不足しがちです。
6. ビタミンB12
ビタミンB12は動物性食品に含まれる栄養素です。不足すると、巨赤芽球性貧血や末梢神経障害などを引き起こす恐れがあります。
日本では、12歳以上の男女のビタミンB12摂取推奨量が1日2.4μgと定められています。基本的に植物性食品からは摂ることができないので、ヴィーガン食のみでは欠乏しやすいでしょう。
7. ビタミンD
ビタミンDは、魚やキノコ類に多く見られる栄養素です。カルシウムを吸収しやすくして、頑丈な骨づくりをサポートします。
18歳以上の日本人の摂取目安量は1日8.5μg。魚を食べないヴィーガン食では不足しがちです。不足が進むと骨が軟化して細く弱くなり、骨軟化症(子供では「くる病」)を発症する恐れが指摘されています。
野菜や植物性食品だけで大丈夫? 子供の成長に特に必要な栄養素とは
つづいては、子供が成長するにあたって特に大切な栄養素についてお話しします。
1. たんぱく質
ヴィーガンで不足しやすい栄養素にも数えられていますが、たんぱく質は体の構成に欠かせない栄養素です。子供の健やかな成長には非常に大切です。
14歳までの子供は体重1kgあたり約0.5~0.93mg(年齢によって異なる)のタンパク質が必要とされています。ヴィーガン食でよく用いられる大豆だけでそれだけの量を摂るのは、正直なところ難しいでしょう。
2. 炭水化物
炭水化物はエネルギーの源になる大切な栄養素です。脳や神経、血液などが正常な働きをするうえで欠かせません。
日本では、子供から大人まで、炭水化物の摂取目標量は50~65%エネルギーとされています。タンパク質・脂質とのバランスが重要になります。
3. カルシウム
ヴィーガンで不足しがちな栄養素として前項に登場していますが、カルシウムはしっかりした永久歯を育てたり、力強い骨を形成したりと子供の健康的な成長には必要不可欠です。
摂取推奨量は1日に約430(1~2歳)~990mg(12~14歳)と、14歳頃がピークに必要だとされています。子供たちが元気にグングン大きくなれるよう、カルシウムを補ってあげたいですね。
4. ビタミン類
ビタミンは脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンの2種類に分けられます。脂溶性ビタミンは脂肪組織や肝臓に蓄えられており、水(液体)には溶けません。体内の機能が正常に働くようサポートしてくれます。水溶性ビタミンは血液などに溶けて存在し、体内酵素の代謝の働きをサポートする「補酵素」として働きます。
各ビタミンを分類し、それぞれ1歳から17歳までの子供の1日の摂取推奨量を表にまとめました。
脂溶性ビタミン | |
---|---|
ビタミンA | 男400~900/女350~650μgRAE |
ビタミンD | 3.0~9.5μg(目安量) |
ビタミンE | 3.0~7.0mg(目安量) |
ビタミンK | 50~170μg(目安量) |
水溶性ビタミン | |
---|---|
ビタミンB1 | 0.5~1.5mg |
ビタミンB2 | 0.5~1.7mg |
ナイアシン | 5~17mgNE |
ビタミンB6 | 0.5~1.5mg |
ビタミンB12 | 0.9~2.4μg |
葉酸 | 90~240μg |
パントテン酸 | 3~7mg(目安量) |
ビオチン | 20~50μg(目安量) |
ヴィーガンで不足しやすい栄養素として前述したビタミンB12は、子供に不足すると発育不全や成長の遅れなどが心配されます。
また、ビタミンDは乳児では5.0μgが目安(記載外)とされていますが、ビタミンD不足による乳児のくる病発症例が増加しています。いずれも注意したい栄養素です。
5. 鉄などのミネラル分
ミネラルとは、生物の体を構成する4元素(酸素・炭素・水素・窒素)以外のもののことをまとめた言葉です。体の中で合成できず、食べ物から摂る必要があります。
ヴィーガンで不足しやすいミネラルの1つ、鉄分は子供では1日に3.5~8.0mg必要とされています。不足すると脳への影響が心配されます。脳に酸素が行きわたらないと、運動や認知、情緒などの能力の発達が低下することが考えられるのです。
また、亜鉛の子供の1日の摂取推奨量は、3歳までは1日2~3mg、4歳以降18歳までは1日5~11mgという値が算出されています。足りなくなると発育の遅れが心配される栄養素です。
子どもの身体の成長や健康維持には動物性食品の栄養も必要!
子供が健康を保ちながら心身の機能を発達させていくうえで、ヴィーガンだけの食事では栄養が不足する可能性が非常に高いことがわかりました。
もちろんヴィーガンが悪いわけではありません。しかし、小さな子供は自分で食べ物を選ぶことができないのです。動物性食品にしか含まれない栄養素もあるので、最低でも摂取目安量分は摂れるよう、周りの大人が働きかける必要があります。
また、いろいろなものを食べることは、食べ物それぞれに「味」があるということを覚えさせることにもつながります。信条は大切ですが、親の立場なら子供が健康で大きくなっていくことを願いたいはず。
不足しがちな栄養はヴィーガン食以外のものから補って、子供の健やかな成長をしっかりサポートしましょう。