有機農業で栽培された作物は、「自然にも体にも良いものだから、安心して食べられる」と考える人が増えています。では、有機栽培はいいことづくめなのでしょうか。
たしかに有機栽培には良い点がたくさんあります。しかし、その反面で悪い部分もあるのです。
そこで、有機農業のメリットやデメリットについて深掘りしました。長所と短所を知ったうえで、それでも有機栽培の食品を口にしたいと思えば、ぜひ召し上がってみてください。
有機栽培・有機農業のメリット・デメリットとは?
年々注目が高まっている有機農法(有機栽培)。食べ物の安全性を考える方にとっては、食品を購入する際の指標になっている場合もあるでしょう。
しかし、有機栽培について正確に理解できている方は意外に少ないものです。有機農業とはどのような生産方法なのかを知り、そのうえで、有機栽培における利点や欠点をお伝えします。
そもそも有機栽培(オーガニック)とは?|化学肥料や農薬を使用しない生産方法
有機栽培とは、「有機農業」「有機農法」「オーガニック(栽培/農業)」などとも表現されます。平たくいうと、化学的なものを使わず、天然・自然のものを生かして環境に負担をかけずに育てることです。
化学肥料や放射線などを使用しないのはもちろんですが、生育の過程で化学的なものが誤って混ざってしまうことも禁止されています。
有機栽培農家は、雑草や害虫などに頭を悩ませながらも、化学的なものを使わない・混ぜないよう最大限の配慮と対策を行い、苦労して作物を育て上げているのです。
なぜそんなに苦労してまで有機にこだわるのか。理由は、人々に安心安全なものを届けたい、また農家の人たちが自分自身安心できるものを食べたいという熱い思いがあるためでしょう。
自然農法との違いとは?|自然農法は農薬不使用
自然農法は、天然・化学を問わず、農薬や肥料を使用せずに作物を育てるという農業方法です。ですから、基本的に農薬・肥料は使われていません。
なお、かつては農薬を使用しない農業に対して「無農薬」という表現が使われていましたが、現在は農林水産省の規定により「無農薬」という表示が禁止されています。
たとえその畑で農薬を使っていなくても、近隣の畑で使っている農薬が飛散したり、上流の田んぼで使用した農薬が水とともに下流に流れてきたりする場合があり、「残留農薬」として検出されることがあるためです。
対する有機栽培では、天然由来の肥料や農薬の使用は認められています。つまり、化学的な肥料や農薬を使っていないだけで、完全に肥料および農薬が不使用というわけではありません。
ただし、自然農法にはいくつかの流派があり、一部に肥料を用いる、部分的に農薬を使う、という考え方をしている人もいます。
特別栽培農産物との違いは?|地域の慣行レベルが基準
特別栽培農産物とは、その作物を作る地域で用いられる”化学的な農薬の使用回数”や”化学肥料の窒素成分”のレベルと比較されます。どちらも「基準より50%以上低い」という条件をクリアしていれば、特別栽培農産物と認められます。
つまり、有機栽培とは異なり、特別栽培の場合、化学的な物質を使っている可能性があります。
有機栽培・有機農法のメリットとは?
有機農業についての予備知識ができたところで、いよいよ本題の1つ、有機栽培におけるメリットをご紹介します。有機農法には、大きく分けて3つの利点があります。
1. 消費者に安心・安全な野菜やお肉を届けられる
有機栽培では、化学的な肥料や農薬を使わないとお伝えしました。化学的なものを否定するわけではありませんが、なかには体に害を及ぼす危険性があるものもあります。
また、農業では、作物の太りをよくするためや見た目を向上させるため、放射線や遺伝子組換え技術を用いることがあります。しかし、有機栽培では放射線や組換えDNA技術の使用も禁じられています。
農家の方々の並々ならぬ努力や配慮のおかげで、私たち消費者は安心安全な農産物を口にすることができるのです。
2. 普通の食品との差別化が図れる|有機JAS認定表示
日本では、有機農法によって作られていることが認められた農産物に「有機JASマーク」をつけることができます。有機JASマークがついていることで、有機農法で栽培されていることが一目でわかる仕組みです。
生産者にとって特色のアピールにつながるマークですし、食の安全を気にする消費者にとっても、有機栽培で育った農作物かどうかをチェックしやすいのは助かります。有機JASについて、詳しいことは後ほど解説しますのでご覧ください。
3. 自然環境に優しい
有機農業については、「有機農業推進法」で「農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減」と定義されています。そのため、有機農業では生物の多様性や循環にも重きが置かれています。
強い化学物質を使うと、土の中の有用な微生物など生態系をおびやかしてしまう恐れがあります。その点、天然の資材を使用する有機栽培なら、土壌に悪影響を与える危険性が低いのです。
また、動物のフンや野菜・果物の食べられない部分など本来ならば処分されてしまう自然資源を肥料として有効活用できます。
土壌・水・空気など自然の力を最大限に活かした農業なので、地球環境への負荷が少なく、エコな栽培方法といえるでしょう。
有機栽培・有機農法のデメリットとは?
有機農業における長所が整理できたら、つづいては短所にも触れておきます。有機栽培のマイナス点とは、どのような部分なのでしょうか。
1. 収穫量が少ない→流通量も少ない
有機農業は、化学的な物質を使う一般的な農業に比べて生育がゆっくりで、収穫量が少ないという傾向があります。
その上 、限られた収穫物は選別され市場に出回るため、流通量はさらに少なくなってしまいます。そのため、手に入りにくいというデメリットがあります。
近くにオーガニック商品を売っているお店がないなど、身近では手に入れられなくて残念に思った方もいるかもしれません。そんな方のために、この記事の最後で有機食品を購入できるネットショップを紹介しますのでご安心ください。
2. コストがかかってしまう
有機農業を行うには、費用がかかります。化学的な資材を使えない分、雑草や害虫などの対策に多額のお金が必要なのです。手作業なら、人件費も考えなくてはなりません。
さらに、有機栽培と認められるまでには、さまざまな書類を準備し、認定機関での審査を受ける必要があり、それにも費用がかかります。認定後も、有機JASマークのシール・パッケージなどの手間やコストがかかるのです。
そのため、有機栽培と同等の栽培方法をとっていても、費用対効果を考え、有機農業の申請をしない農家もいるのが現実です。しかし、コストに関するデメリットを軽減する方法もあるので、後ほどお伝えします。
3. 病害虫への抵抗力が弱め
有機農産物は、化学農薬が散布される普通の農業に比べて、病害虫に対する抵抗力が低いという傾向があります。作物が病気になってうまく育たなかったり、虫がたくさんついて見栄えが悪くなったりしやすいのです。
しかし、考え方を変えれば、人間より小さく抵抗力の弱い”虫”が食べても安全な作物ということになります。
有機栽培に関する規格を知ろう
有機栽培やオーガニックと認められるには、所定の認証基準をクリアする必要があります。基準にはさまざまなものがありますが、まずは日本におけるオーガニック規格を中心に見ていきましょう。
日本には「有機JAS」というオーガニック認証規格がある
前項でも軽く触れていますが、日本には農林水産省が管轄する「有機JAS」という規格があります。ちなみに、「JAS」とは「Japanese Agricultural Standards(日本農林規格)」の略称です。
有機JASでは、食品に関係する「農産物」「加工食品」「飼料」「畜産物」の4つの分野において、それぞれ細かく有機認証規格が設けられています。そして、認証機関の厳しいチェックを受け、合格して初めてオーガニックと名乗れるのです。
有機JASの認定を受けた商品には、「有機JASマーク」という認証マークをつけることができます。太陽・雲・植物をイメージして作られたロゴで、マークがついていれば一目でオーガニックとわかります。
認証を受けるための補助金制度もあり
前で紹介したように、有機JASの認定を受けるにはコストがかかります。そのため、金銭的な負担を理由に認証を受けない農家などもいるのです。そこで、国や自治体がオーガニック認証にかかる費用を一部補助してくれる制度が設けられています。
ただし、実施している自治体としていない自治体があるので、自分が住んでいる場所が補助金の対象になっているかどうか事前に確認しましょう。
また、有機農業に新規参入する人に対する支援制度もあります。オーガニック農家が増えることは、地域の活性化にもつながる可能性があるのです。
農業や食の安全に対する世の中の関心がどんどん高まっているため、生産者に対する環境が整備され、有機農業への参入やオーガニック認証取得に対するハードルが下がってきました。これから農業をしたいと考えている人は、ぜひ活用してみてください。
コスメや衣料品などのジャンルには公的な規格がない
前項で解説したように、日本のオーガニック規格「有機JAS」は食に関する分野のみが対象です。化粧品や衣類などに関しては、公的な有機認証基準が存在しません。
そのかわり、化粧品には「日本オーガニックコスメ協会」、衣料品に使われる綿素材には「日本オーガニックコットン協会」という民間の認証機関があります。2つの略称はいずれも「JOCA」です。
また、衣料品のテキスタイル(布素材)に関しては、世界的な基準の「GOTS(Global Organic Textile Standard)」というものがあります。中央にTシャツのようなシンボルがあるロゴマークが特徴です。
海外にも国や地域ごとにおのおのの有機認証基準がある
ここまでは日本の有機認証制度について触れてきましたが、海外にも国や地域ごとにさまざまなオーガニック規格があります。
- ヨーロッパの「NaTrue(ネイトゥルー)」「COSMOSオーガニック」
- フランスの「ECOCERT(エコサート)」
- オーストラリアの「ACO」
- ドイツの「BDIH」
- アメリカの「USDAオーガニック」
などです。それぞれ厳しい基準が設けられており、独自の認証マークを持っています。
また日本でも、有機JAS適用範囲外のジャンルの商品においては、海外の認証を受けたものや、複数のオーガニック認証を取得したものがあります。興味のある方は、商品を選ぶ際にどんな認証を受けているのかチェックしてみてください。
オーガニックの良さを味わおう! 有機食品を購入できるオンラインショップ9選
一般への流通量はまだそれほど多くない有機農産物。確実に手に入れたいなら、売っているかどうかわからない近所のスーパーに行くよりも、ネットショップのほうが買いやすいかもしれません。
誰でも手軽にオーガニック食品を買える通販サイトを3つご紹介します。
ビオ・マルシェ|ビオマーケット
大阪府に本社を置くネットショップ【BIO Marche】です。京阪エリアを中心に、実店舗も展開されています。
全国各地や海外産の有機JAS認証食品を取り扱っています。野菜・果物・米/雑穀・畜産品などジャンルごとに欲しいものを探すことができますよ。
税込み14,000円以上のお買い物で送料が無料に。外出しなくても自宅まで届けてくれるので、週1ごとなどにまとめ買いしてもいいのではないでしょうか。
ビオフロレスタ
こちらも大阪の会社が運営するネットショップ【ビオフロレスタ】。「ムソー」という名前、聞き覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ムソーのPB商品だけでなく、全国のオーガニック食品やマクロビ食品など、安全や健康に気遣った商品を数多く取り扱っています。冷凍食品やレトルト・インスタント商品もありますよ。
時期によってはセールが行われており、お得に購入できます。常温商品は税込み5,000円以上、冷凍は税込み6,000円以上で送料無料です。
マミーズストア
数々のメディアでも取り上げられている、注目の有機食品オンラインストア【mammy’s store】。野菜やお米をメインに取り扱っている印象で、商品数としては多くありません。
しかし、初めての方向けに、トライアルのベジタブルセットやスムージーセットが良心的な価格で提供されています。なんと返金保証まで付いているのです。
小さなお子さんでも安心して食べられる商品を取り揃えています。
こだわりや
お米や野菜、お菓子、飲み物など豊富なジャンルのオーガニック食材を取り揃えているショップ。オーガニックではないものもありますが、有機の商品には「Organic」や「有機JAS」のマークが付いており、わかりやすいです。
ショップで販売している食材を使ったレシピの紹介や調味料に関する豆知識、季節に合わせた特集など商品以外の情報も充実しており、こまめにチェックしたくなります。
たべるとくらすと
「食べる暮らしをゆたかに」をコンセプトに、真摯にものづくりに取り組むこだわりを持った生産者と、安心安全な食生活を送りたい消費者とをつなぐ場所を目指しているショップです。
「私たちが心から美味しいと思えるもの」「農薬、化学肥料、除草剤を使用していない農作物」「人工的な添加物を使用していない加工品や調味料」と、取り扱う商品の基準にもこだわっています。世の中にこんなすばらしい商品があったんだ、と気づくきっかけになるかもしれません。
Brown Village
マクロビオティックと自然食品を取り扱うネットショップ。すべての商品がオーガニックというわけではありませんが、有機以外にも無添加やナチュラルにこだわった高品質な食材が並びます。
また、マクロビメニューのレシピやマクロビに関するコラムなども掲載されているので、マクロビに興味がある方はチェックしてみてください。
らでぃっしゅぼーや
有機栽培の野菜や果物のほか、厳選素材で作られた加工品や、国産の良質な原材料にこだわった食品などを多数取り扱っています。
また、「RADIX」という独自の基準を設定。品質や安全性の高い商品ラインナップを追求しつつ、環境への負担を減らすことも意識しています。ナチュラルな食品への興味関心が高い方におすすめです。
LIMA Netshop(リマの通販)
マクロビオティックに長年取り組んできた「オーサワジャパン」の商品を中心に取り扱っています。オーサワの商品には、マクロビでありながら有機などこだわりのあるものが豊富です。
リマの通販では、「有機」や「オーガニック」というキーワードで検索すると、何百種類もの商品が出てきます。気になる食材がきっと見つかるでしょう。
ビオクラ
有機の食材はもちろん、有機素材を使用して作られた加工品も多数。また、動物性食材を使用しない「ヴィーガン」の商品も取り揃えています。
ビオクラで人気の高い本格的なスイーツも、有機素材や国産食材で作られているのは嬉しいですね。オーガニックだけでなく、プラントベースに関心の高い方にもおすすめです。
オーガニック食品の安心は農家さんの努力が支えている
有機栽培には利点がある反面、デメリットもありましたね。生産者たちは苦悩と苦戦しながらも、消費者に良いものを届けたいという気持ちで、日々一生懸命農業を行っています。
もちろん、費用や効率などの面を考えると、化学物質を使う農業が悪いわけではありません。有機栽培でも一般の農業でも一長一短があるので、個人の考え方で選べばよいでしょう。
普段の食卓では有機ではないものを、特別な日だけ有機食品を食べるという方法でもかまいません。ご紹介したサイトも参考にしながら、気になるオーガニック食品を見つけていただければ幸いです。
参考:
【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~(農林水産省)
有機農業・有機農産物とは(農林水産省)
自然農法の基礎知識 (自然農法国際研究開発センター)
有機食品の検査認証制度(農林水産省)